大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)686号 判決 1961年8月08日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人野島武吉の上告理由第一点、同金原政太郎の上告理由第一点について。

原判決は、原審鑑定人河野志郎は本件家屋の所有権およびその敷地の借地権の昭和二五年六月当時の時価は合計で一六五万一七〇〇円と鑑定しており、この結果に従えば、本件家屋が同月中に代金一〇万円で売買されたとするのは、代金が余りにも安過ぎてことの真相を誤認するものとの非難を招くかも知れないが、被上告人と上告人とは三〇数年来の知合で、被上告人が本件家屋の所有者となつても直に上告人にその明渡を請求する意思はなく、かえつて、本件家屋はひとまず上告人に賃貸しておき、相当の期間内であればこれが買戻にも応ずる意向であつて、現に昭和二七年の二月頃までは時々当事者間に買戻の話が持ち上つていたことならびに一審判決において認定した売買当時本件家屋は税金の滞納により差押中であり、その滞納税額が昭和二三年度の所得税三一万余円のほかこれに対する相当額の加算税が賦課されていたことなどの事情を綜合すると、本件家屋の売買代金が一段と安く定められたことは取引の通念に従い当然である旨、判示している。しかし、原審昭和三五年三月一四日口頭弁論において上告代理人の援用した昭和三五年二月四日付豊島税務署長の回答書の記載によると、滞納税額は当初は合計四〇万七九七七円であつたが昭和二四年一二月二四日誤謬訂正減として合計一九万五七三五円減額されたことが窺われるし、また原審昭和三四年六月一〇日口頭弁論において被上告代理人の援用した昭和三四年五月二五日付豊島税務署長の回答書の記載によると、昭和二五年三月一八日滞納税金のうち金八万円の納付があつたことが窺われるので、もしそうだとすれば、本件家屋の売買のあつた昭和二五年六月二七日当時の滞納税額は金一三万二千余円であつたこととなる。そこで、原審鑑定人の鑑定の結果のとおり昭和二五年六月当時の本件家屋とその敷地の借地権の時価の合算額は金一六五万一七〇〇円であるとすれば、右合算額から右滞納税額を差引くとしても時価一五一万九千余円のものがわずか金一〇万円で売買されたこととなる。このように時価と代金が著しく懸絶している売買は、一般取引通念上首肯できる特段の事情のない限りは経験則上是認できない事柄である。そして、原判決判示の事情および原判決の引用する一審判決判示の事情だけでは、被上告人は上告人から本件家屋を金一〇万円で買受けた旨の原判示を、一般取引通念上たやすく首肯することはできない。原判決は、よろしく、右鑑定の結果ならびに右回答書の記載を措信できるか否か、および買戻の特約があるために特に代金を低廉に定めたものであるか否かなど一般取引通念上是認できる特段の事情について審理判断を加うべきであるにかかわらず、原判決は上記事情を認定しただけで、たやすく、本件家屋の売買は代金が低廉に過ぎ仮装のものであるとの上告人の主張を排斥したのは、審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。論旨はこの点において理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。

よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項を適用し全裁判官一致の意見を以て主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例